一畳ちょっとの二人部屋

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創作や趣味のゲームの話

【クトゥルフ神話TRPG】シナリオ『しほぢのまぼろし』ができるまで【RPG Writer Workshop】

B!
LINE

 

  ちゃんとホラーシナリオなんです。本当なんです。

 

 前の記事を書いたついでにワークショップで作ったシナリオ『しほぢのまぼろし』ができるまでの過程を(覚えてる範囲で)丸々公開しようと思います。下書きも残ってる部分は全部載せます。他人がシナリオを作る過程に興味のある人がいれば読んでってください。

表紙&本文はこんな感じ。
 

しほぢのまぼろし表紙

しほぢのまぼろし本文サンプル

 下書きから直接本文になった箇所もあるので下書きとして残っているのはかなり途切れ途切れですが、初期構想からの変遷が分かるので自分で見てもちょっと面白いです。アイデア発展の過程からシナリオ本文以外の作業についても書きました。
 
 完成品のシナリオDLはこちらから(無料~好きな値段でDLできます)。
 DriveThruの使い方はTwitterで書いてくださってる方がいるのでこちらの方のツリーを参照してください。

 

  以下の部分でシナリオ『しほぢのまぼろし』のネタバレをしています。これからプレイヤー予定のある方は読まないでください。

 

ネタ出し、アイデア発展のきっかけ、リサーチ

 この機会に積み本を減らそうと『日本の海の幽霊・妖怪』を読んでたら面白かったので海(&島)をテーマにしようと決める。

 
 最初は「村人がヤバいと思ったらもっとヤバい神話生物がいたという話にしよう、あと日本の海の幽霊~に出てきた舟幽霊が面白かったから出したい」程度の構想から出発しました。
 
 日本の海の幽霊~に伊豆大島の話が出てくる
 →そういえば貞子(映画『リング』)って伊豆大島関係あったような……で調べてみて舞台のイメージを伊豆諸島に決定
 →火山いいのでは?
 →なるほどかんらん石いいな……
 
 と進み、舞台のセッティングは伊豆諸島のうちいくつかの島をモデルに充実させました。
 ブレインストーミングの課題で他のアイデアも色々出したんですが結局このテーマが一番手元の書籍が充実してたのでそのまま海&島路線に決定。
 その他参考になった本は『漁民の世界 「海洋性」で見る日本』など。

 宮本常一海に生きる人びととかも読みたかったんですがさすがに手を広げすぎてもアレなので頑張っておさえました。網野先生の海民と日本社会海と列島の中世も待機してましたが今回はなんか違うなと思って使わず。
 
 あと何故か書き終わったあとに『三つの石で地球がわかる 岩石がひもとくこの星のなりたち』というブルーバックスを読んでたんですがすごく分かりやすくて石(と地球)に対する解像度が上がりまくる良本でした。なにげなく出した橄欖石のせいで石に開眼してしまった

 
 シナリオの構造は当初1万字程度の予定だったこともあり、
 
 行きの航路で舟幽霊(まだあまり怖くない)を見る
 →島では背景情報にまつわる簡単な情報スタンプラリー
 →帰りの航路で怖い舟幽霊を見る
 
 というシンプルイズベストな構造、のはずだったんですが色々書いてるうちに3万字になってしまいました。ただ全部回る必要はないので1万字くらいのボリュームで遊んで帰る場合も相当あると思います。
 元の構造が1万字相当レベルのプレーンなものなので3万字分全部回ると島のイベントが薄くてテンションが平坦(自分基準)という問題がテストプレイで発覚し、最後にいくつかイベントをいじりました。
 

下書き

 ちゃんとした文章にする前の下書きというかメモの書き散らし。捨てたアイデアもあるので今見るとそういやこんなんあったな……という感じですね。メモ本当にそのままの生なので雑多です。
 
 
 
だんだん増える幽霊たちがついに島の住民を根絶やしにしたorどこかの時点で幽霊を集めて神格の儀式させるAFが流れ着いた?
妙な因習が多く閉鎖的な村だった(実は増え続ける幽霊たちの害に対抗するため)
 
単に漁師の亡くなりやすいエリアがあった?→島に流れ着いた漁師が異人として殺されていた?(妙な因習が多く閉鎖的な村だった情報、妙な儀式をしていた(神格から身を守るための)など)→村人たちも実は何者かにやられていた、ひどく奇妙な方法で→流れ着いた漁師が逆に住民を引きずって出ていこうとしてた記録があったり
 
怪しい船に遭う(古くて見覚えのない形だから怪しい、あと天気のこともあるしもしかしたら……ってなる)
 
船の幽霊かどうかを確かめるにはね、とにかく何か2本の張ったもんの間から見たらいいというような気がするね
 
船の幽霊は溺死した人とか戦死者とかがなるらしいと聞く
 
流れ着いた人が残した手記
公民館の議事録
駐在所の日誌
村長の日記
島の外とやりとりしていた手紙の束
村民のアルバム
 
島で探索するとあの船幽霊たぶんただの溺死者じゃなくて殺された人だしここの神格は絶対に見たら死ぬ~~!って分かる
 
 
無策で海上に戻れば今度こそ後家場に流されるかもしれないし、不安で頭がおかしくなって先ほど見たような舟幽霊の幻にとりつかれ、やはり舵を失って死ぬかもしれないと与船は真剣に恐れている。彼は先ほど見た舟幽霊を海上で船乗りがよく見るたぐいの幻覚だと捉えているのだ。どちらに進めばよいかはっきり分かってさえいれば、そのような不安症に襲われることもないと与船は主張する。
 
まずは船頭を寝かせられる家と電話を探して探索
ちょいちょいエネミーを避けて家の中に逃げ込ませることでついでにその家を探索してもらう
 
海やさびれた島のイメージについては映画『リング』が参考になるだろう(作中で主人公たちの訪れる島から人が死に絶えたようなイメージ)。
 
・ぼちぼち村人たちの行っていたと思われる儀式と一致しない儀式の痕跡も見つかる
人の開きではなく切れ目なく完全に内外がひっくり返っている
 
例えばだが、まっすぐに進んでいるつもりでも潮に方向を狂わされていつのまにか戻ってたりする。確実に方角が分かる方法を見つけるか何かしないといけない
 
明かりは火山の火口のあたりに見えた気がする
がここの火山は活動する場合は煙が上がるので分かるはず、噴火の徴候ではない
 
村人が減ってた記録
 
探索者が要求した場合、民家を探せば置き薬や薬草を見つけることができる。ラベルは古く、現代人であれば書いてある文字を正しく読み取るのも難しい。〈医学〉もしくは〈科学(薬学)〉と〈日本語〉の組み合わせロールに成功すると、(おそらくこれらが使われていた頃からかなり時間が経ってはいるものの)適切な熱冷ましの薬を選ぶことができ、
 
人間の開きを作ってストックしてある場所
一度来て死体調べて人造じゃん……って分かったらあとでもっかいここに鍵があるかもって探しに来る(死体の作り方とか機密情報だから機密の場所と近いところにまた機密の鍵とかある)
人の死体の皮に切れ目を入れ薬品で加工して剥がしやすくし、裏返したものを着せ直す(この過程の書き付けは加工死体置き場で見つかることにしてもいいかも)
鍵探しに来て奉仕種族避けて逃げ込んだら奉仕種族が扉開けてその衝撃で?あるいは探してたらその振動で上から死体が落ちてきて覆い被さる
 
割れたかんらん石が踏まれて埋まっている巨大な足跡に踏み固められた道(一見個別の足跡は分からない?)→5mくらいあるから一見足跡と分からない、足跡に踏み込んである程度歩き回った場合〈INT〉で足跡の形をしていると分かる
 
神話生物の儀式についてどこかでマスターキー手に入れてから来られる場所で読む
 
船に姿を変え、海上を歩く
 
時間かかると海からなんか白くて細長いスレンダーマンみたいなの(磯餓鬼)がぞろぞろ上がってきて儀式をしに山の上登っていく
 
神格の光が儀式で形成された火口付近の巨大なかんらん石(ペリドット)のレンズを通して偽灯台の火を作っていた
 
神格は探索者たちが島にいる間は無関心だが逃げ出そうとすると磯餓鬼に引っ張られて追いかけてくる
 
〈歴史〉10世紀とかそこいらの船に見える
〈文学〉平家物語に出てきそうな船
正体は召喚された船幽霊の神格
 
 

イデアの変化

 下書きに痕跡が残ってますが、最初は磯餓鬼も元々人間の死者(が神話的なパワーでどないかなった設定)という、CoCというよりは伝統的な怪談寄りのテイストでした。
 ただ本文ちゃんと書き始めたくらいのタイミングでワークショップで知り合った人と色々話しまして、「もっと神話テイストの強い話にしたいな~」という思いが強まったので自前で神格も神話生物も作って刷新。火山にいそうな神格と言えばガタノソアとかいますが舞台的にももう少し日本っぽい何かがほしかったんですよね。そのうちトポロジカル不可能体と日本の海底世界を軸にして超ミニサプリでも作ろうかな。
 

シナリオ本文執筆

 ワークショップのガイドに沿って書くと非常に調子がよろしく、8割方はさくさく進みました。が、細かい処理の提案とかどこまで書き込んだらいいか分からず大苦戦。当初はプレイグループに合わせて調整&処理してもらったほうがいいよねと思ってあまり書いていない箇所も多かったんですが、初心者の人がKPする場合はなんだかんだ細かく書いておいた方が親切だったりもするし、そういう人が参考にすることを想定するならかなり汎用的に使える処理を考えて書き込まないといけないし、で悩みに悩む。
 結局それなりに書きましたが、皆さん、シナリオはあくまで目安です。ルルブにもあるとおり読んだあと自分の好みやプレイグループに合わせて調整してください。全然違う処理使ってもいいです。CoCはシステムがだいぶファジーなほうなので金科玉条的にシナリオに書いてあることを守る方が危ないです。最終的なセッションはあなたの美学を元にして作ってください。どうぞよろしく(といきなりこんなことを書く意図が分からない方もいるかもしれませんがその場合は気にしないでください)。
 

テストプレイと調整

 事前に「終わったらこういう内容を質問します」というのをPLさんに伝えてテストプレイを行いました(実際は合間の休憩時間中から色々聞いてた)。
 
  • 日本語力的な意味でぱっと見意味のとりづらい文章があれば教えてください(専門用語などを除く)
  • 次に何をすればいいか分からなかった/いくつか選択肢は思いつくがどれも意味のある行動だとは思えなかった/あることをやってみるべきなのかどうか分からず悩んだ  など、次の行動に悩んだタイミングを教えてください。またそのタイミングで悩む元になっていた情報を教えてください。
  • 「これはリスクが大きそうだ」と思って回避した行動にはどのようなものがありましたか?またその時どのような危険に襲われる可能性があると予想しましたか?
 
 まず最初に渡した質問に答えてもらい、そこから発展して直すとよさそうな点について話し合いました。
 一番大きな変更点は最初に出てくる浜辺の死体。
 
「着いてヤバいよって言う手記を読む&時間がたっても帰る手段が見つからないだけだと積極的に探索に乗り出す動機(危機感)が薄い」
「医学成功してもさすがに何十年前のものか分からない薬使うのは怖い」
 
の合わせ技で民家で見つかる予定だった薬がカットされて冒頭の死体が追加されました。そっかあ……これが冒頭で死体を転がせってやつか……ってめっちゃ言ってた。
 まあ使用期限1年前の薬でも使いたくないのにラベルが右から左に書いてあるような薬人に飲ませたくないよね。
 でも右から左に文字書いてあるようわからんラベルを読みたかったんですよ。私が。(趣味)
 このために解熱鎮痛剤の歴史とかめっちゃ調べたのに。諦めましたが
 シナリオの都合で今回は安全ってことにしてもええやんってめっちゃ未練がましく主張してた。でもさすがに嫌だよな……(理性の声)。
 あと磯餓鬼の攻撃で服をロストするやつすっかり忘れてた(実際のプレイの際にはPLさんとご相談の上この処理を発動するかどうか決めてください。多分嫌がる人もいるのと、完全にお遊び用なので)。
 
 以下感想戦しながらとってたメモ。
 
 
 
KP地図
平野部
案山子の場所
神社に上がる孔の場所
断層の文字を小さくする
上の崖について
舟置き場
 
・・おじいちゃんとの連絡先
・・図書室で出せそうな情報  地図帳  言い伝えなど
・・戌亥の風の情報が出た時点で帰れるよ!って言ってもいいのと
・・マグマ人との戦闘逃走できるよって選択肢として言っとく
・・強行突破の対策  村長の家に石塀?
・・倒されそうにならなくてもターンで自動でおかわり
・・落とし子の姿の示唆  怖いぞ! 図書館
・・駐在と御番役はちょっと格落ち
・・炎のアイアンクロー焼け焦げて死んでる死体から薬
・・ランタン手に入れたぐらいで楽になった電話がかかってくる10と30?
・・水島
 
船の馬力が足りるかどうかプレイヤーが悩んでたら言っていいよ!
苫の難易度調整  家の破壊具合  船にあるもの
一人ぐらいは立ち上がっても大丈夫アピール
POWについて(難易度調整)
・・元からそういう生き物だったようだ
神社
・・足跡
・・初遭遇戦をチェイスに、一体は深淵の息
・・()の全角半角統一
 
 
 今自分が見てももはや意味が分からなくなってる項目がありますが(あと最終的に採用しなかったのもいくつか)、完成形を読んだあとに見てもらうとなんとなくあそこか~っていうのが分かると思います。
 メモの一部を翻訳しますと、
 
 ・与船はシナリオが始まる前に電話番号を交換していることにする
 ・図書室は「出し忘れた情報があればここで出していいよ」程度しか書いてなかったけどもう少し具体的に出そうな情報を書いてもいい
 ・いくつかの場面でPCがとれる行動の選択肢を示唆したり誘導を増やしたりする
 ・緑のランタンを使わないと(あるいは使ったとしても)炎の落とし子がちょっと唐突なので何か他にも存在を示唆する情報を入れる
 ・与船の調子が悪いと帰りたくても動かすのに躊躇するのでそこのフォローを入れる
 
 などなど。磯餓鬼の描写についてもドンピシャで求めていた表現を教えてもらったりしてもうテストプレイヤーのお二人には頭が上がらないです。これは本当にやってよかった。
 

編集

 校正くらいですが人に頼んでる時間がなかったのでほぼ自前。そのうち直すかもしれないです。
 

レイアウト

 Affinityとか覚えたほうがいいのかな~とか言いつつ結局イラレでやってました(単体プランなのでインデザがない)。デザインには満足できたけどさすがに20ページ↑ものPDF作るのに使うものではないですね。絶対にDTP用のソフトでやったほうがいいと思います。言われなくてもこんなアホなことやるの自分くらいだとは思いますが。
 初心者向けにはAffinity, Scribus, Wordあたりが推奨されててテンプレも紹介されてた記憶があります。
 こういうシナリオ用のPDF作るのが初だったのでそこも四苦八苦してました。あとMiskatonic Repositoryはクレジットの文面とロゴをオープンなところで配布してくれ。MRのガイドからリンクされてるテンプレの中にちゃんと手元のソフトで開けるものがなくてそもそも公開にたどりつけないところでした(結局DriveThruにdocx.で開ける日本語テンプレがあった)。
 

画像制作

 マップやNPC画像など。すべて自前です。マップはクリスタの素材で色々配布されてるブラシを使わせていただいて火山だけ手書き。

 これで無料素材はすごい。

 

 

assets.clip-studio.com  この二つは有料ですが一瞬で地図ができました。

 

 あとは国土地理院の古地図コレクションで昔の伊豆諸島の地図を見たりしてました。日本の地図で何かやりたい時にはもう国土地理院の各種サービスが鉄板ですね。

kochizu.gsi.go.jp 特に公式のシナリオ回してると、KP用地図しかなくてPL用地図は自分で描けと……?この複雑なやつを……?ってなることが多いのでちゃんとPL用地図とKP用地図両方作りました。お役立てください。

 

 さらに一本の艪でこぐ形の船について、そもそも見たことのない人は分からないのではという意見をテストプレイの時にもらってたので追加でお絵かき。

 

公開後

 通常版のPDFを作り、Accessible版(スクリーンリーダーの読み上げとか使いやすいやつ)のPDFも作り、画像はZipにまとめ、で3ファイルをアップロード。この公開作業自体はすんなりいったんですが、ファイルをアップデートするとプレビュー画像をManage Previews of My Titlesから設定しなおさないといけないことに気付いてなくてさっき設定しなおしました(公開から2週間経過)。まあそんなこともある(中身見えないのにDLしてくださった方々ありがとう……)。
 もし回して面白かったよー!という方いらっしゃればDriveThruでレビューしてくださると喜びます
 
 最後にもっかい宣伝。
 DriveThruの使い方はTwitterで書いてくださってる方がいるのでこちらの方のツリーを参照してください。

 
 
 自分で作った設定からまた新しい構想が膨らんできてるのでシナリオ作りはやっぱり楽しいですね。他の人がシナリオ作る過程ももっと見てみたいので、書いてる人いればぜひブログなりなんなりで公開してください(はてブとnoteはちょくちょく探して読んでます)。
 
 マーケティングセクションの宿題の次の3か月間で色々マーケティングするってあと何やればいいんだ……?Twitterに投稿とブログ2本書いたからゴールしていいか?