一畳ちょっとの二人部屋

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これぞタバコの王者!? 1920年代アメリカのタバコ事情 ~キャメル(CAMEL)編~

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THE CAMELS are coming! (1913)
 1920年代のアメリカではどんなタバコが吸われていたのだろうか?を追いかける連載1回目(続くかどうかは不明)、キャメル編です。
 
 

タバコについての概説

 この記事で扱う『タバコ』が、タバコ全体の中でどのような位置を占めるのか概観してもらうため、知らない人向けに手短に解説します。→飛ばして次の項目へ
 
 そもそも、タバコ(tobacco)とは植物のタバコ、もしくはその葉のことを指します。
 タバコの喫い方を大きく分けると、噛みタバコ、嗅ぎタバコ、喫煙(=燃やして喫う)の3種類が存在します。そのなかでも喫煙に用いるのは葉巻タバコと刻みタバコの2種類。葉巻タバコはタバコの葉を刻まずに巻いたもので、シガー(cigar)ともいいます。刻んだタバコの葉を使う刻みタバコは、パイプで喫う場合と、紙で巻いて喫う場合に分かれます。この紙で巻いたものがシガレット(cigarette)です。以下、とくに断りのない場合の「タバコ」は紙巻きタバコ(cigarette)のことを指します。紙で巻くのにも手巻きと機械巻きがあり、キャメルは機械巻きの紙巻きタバコを商品化したものです。
 

1920年代のキャメル

Camel Cigarettes - Jul 1920
 キャメルを製造販売しているのはアメリカの「R.J. Reynolds Tobacco Company」。1875年に設立され、1913年には「オスマン(Osman)」「レイノ(Reyno)」「レッド・カメル(Red Kamel)*1」「キャメル(Camel)」の4ブランドを次々に発売しました。それまでほとんどの消費者は自身の手でタバコを巻いていたのですが、これら機械巻きタバコの大々的な発売により新時代が開かれることになります。他にも、箱形の「カップ(cup)」=現在のわれわれが想像するような20本入りの箱に入れて売られたのも初めてなら、カートン(10箱)という単位で売られたのも初めて。アメリカ全土で販売されるのも初めて。後に「アメリカン・ブレンド」と呼ばれる配合が使われたのも初めてと、初めて尽くしの挑戦的なアイテムでした。
 
 バイラル広告の手法を用いて売り出されたキャメルは、わずか4年のうちにアメリカでもっとも売れるブランドの座に昇りつめます*2。なんと1920年代の初頭には、アメリカで売れているタバコのほぼ半分がキャメルだったとのこと。この時代、もっともポピュラーなタバコの銘柄だと言えるでしょう。
 
 この後チェスターフィールドラッキーストライク*3、オールド・ゴールド、ローリー*4などの後発が次々と発売されますが、1940年代の後半になってもなおキャメルのシェアは30%を誇っていたというのですから驚異的です。
 

キャメルの商品イメージと広告

Camel CIGARETTES The cheer leader (1929)


 キャメルの発売当初、アメリカにおいてキャメル=ラクはまったくなじみのない生き物でした。キャメルにはトルコ産のタバコが配合されており、そのエキゾチックなイメージを強調するためのキャラクターとしてラクダが選ばれたのです。

ところが本当になじみのなさすぎる動物であったため、当初は名前を付けた当のレイノルズ社でも上手くパッケージイラストを描けなくて困っていたんだとか。しかし折よくウィンストンにやってきたバーナム&ベイリー・サーカスのヒトコブラクダを撮影させてもらうことに成功。こうしてキャメルのパッケージに、今に至るまで長く親しまれる『オールド・ジョー』という名のラクダがデザインされたのでした。背景にはピラミッドに加えヤシの木もデザインされており、これらは当時流行のオリエンタルスタイルをふまえています。
 
 新聞広告やポスターなどは健康的、科学的に保証された、おしゃれといったイメージが打ち出され、総じて明るく楽しい雰囲気となっています。有名な俳優やスポーツ選手などがモデルとして起用されることも多かったようです。1921*5年には有名なキャッチコピー「キャメルのためなら、1マイルでも歩く (I'd walk a mile for a Camel) 」が登場し、その後のキャンペーンで大当たりをとっています。
他にも「キャメルにプレミアム(おまけ)やクーポンはありません。(キャメルの)タバコの質は、そんなコストをかけることを許さないほどのものなんです*6 (Premiums or coupons don't go with Camels, because the cost of the choice quality tobaccos makes it impossible for us to give them) 」という有名なコピーがあります(こちらは1915年頃か)。
 
 また、キャメルは20本で10セントと非常に安価だったことも普及の助けになりました。当時他のタバコの相場は15-25セントほどだったようで、いかにその安さが抜きんでていたかがうかがい知れるでしょう。そのわりに高価なトルコタバコのような味がし、口当たりも軽いという評判もあったようです。
 なお後発のラッキーストライクが "It's toasted" というキャッチフレーズで「タバコの葉に存在する刺激物を取り除くためのトースト(熱処理)」をしているとうたっていたのに対抗し、キャメルは「味をマイルドにしてくれる潤いを失わないよう、決してローストしたりカラカラに乾かしたりなんてしない(意訳)」と自社製品のマイルドさをアピールし合ったりもしています(同時に「味は両方変わらないし目をつむるといつも喫ってるブランドすら当てられない」という報告もあったそう)。
 
 

まとめ

"There, Jay," she said--but her hand as she tried to light a cigarette was trembling.
The Great Gatsby By F. Scott Fitzgerald

Have A Camel. The Happiest Words in World (1927)
 発売当初こそ目新しさもあったでしょうが、すぐにメジャー中のメジャーという位置に収まり、20年代にはすっかり「定番」の座を勝ち取っていたであろうキャメル。
 
 1920年代の半ばにはキャメル・チェスターフィールドラッキーストライクの売り上げだけで市場の8割*7を占めていたとのことで、当時のアメリカで最も消費されていたタバコのうちの一角をご紹介しました。後年にはラッキー・ストライク擁するアメリカン・タバコ社との抗争により激しい浮き沈みに見舞われたりもしますが、なんだかんだで現代日本のわれわれにとっても非常になじみのあるブランドなのではないでしょうか。

 
 例によって素人がよちよち調べたものなのでご指摘等あればお待ちしております。
 
 
Allan Brandt, a leading US historian of medicine, provides a superb history of the century of the cigarette in the USA.
 
参考文献・サイト(サイトはいずれも最終閲覧日2022/12/16)
Allan M. Brandt, The Cigarette Century: The Rise, Fall, and Deadly Persistence of the Product That Defined America (English Edition)1st Edition, Kindle Edition (Basic Books, 2009)

Research the Companies - Tobacco Industry: Sources of Historical Research - Research Guides at Library of Congress

画像引用元は以下およびウィキメディア・コモンズ(THE CAMELS are coming! (1913), Camel Cigarettes - Jul 1920)
 
その他確認途中の資料
だいぶ詳しいこと書いてありそうだけど見つけたばかりなのでこれから読む
煙草のブランド別売り上げを確認するのとはちょっと方向性が異なるのと1920年発行なので時期が違う
1920年代半ばの各社純利益などは確認できた、ブランド別売り上げはなさそう
資料の出た時期的には悪くないけどタバコ産業全体についてのあれこれぽい
1931年の資料だけど会社やブランド単位の話は無し
会社やブランド単位の話は無し
20年代のTobacco Manufacturesの項目は確認したけど本当にただのcensus(当たり前)
このシリーズ、文字潰れて読めないやつしかない(困惑)

*1:1936年終売

*2:ここらへん資料によって微妙に書いてあることが違うんですが、おそらくブランド単体としてはこの1917年にキャメルが1位になり、キャメルの販売元であるレイノルズ社の売り上げがアメリカン・タバコ社を抜いて業界1位になったのが1922年というところからブレが生じているのだと思われます。もし違ってたらのちのち編集履歴をつけて修正しますので、正確な情報が必要な場合は各々で調べていただくようお願いします。このへんちゃんと見れば分かる気はするんだけどさすがにしんどい

*3:紙巻きタバコとしてのラッキーストライク。パイプ用タバコとしてはもっと長い歴史があります

*4:現在Lollyという電子タバコがあるがそれとは別物。つづりはRaleigh(サー・ウォルター・ローリーを指す)

*5:Cigarette Century: the Rise, Fall and Deadly Persistence of the Product that Defined America』にはレイノルズ社役員のMartin Frances Reddingtonの言葉として1919年という年号と共に書かれているのですが、一般的に広告への初出は1921年とされているようです。なお大元の出典は Nannie M. Tilley の "The R.J. Reynolds Tobacco Company(1985)" p.223とのこと

*6:いろんな訳見たけどいまいちニュアンスに確信が持てないです(正直)

*7: "In 1925 the sales for AmericanTobacco cigarettes amounted to 17.4 billion, 34 billion Camels were sold,and Liggett & Myersís Chesterfield brand sold over 20 billion. These threebrands would comprise 82 per cent of the American market." 

Smoke and Mirrors: Gender Representation in North American Tobacco and Alcohol Advertisements Before 1950 | Histoire sociale / Social History