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【クトゥルフ神話TRPG】マレウス・モンストロルムの6版と7版を詳しく比較しながら紹介する

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 この記事は主に「6版のマレモンは持ってるけど7版はどうしようかな……」と悩んでいる人、そして「そもそもマレモン持ってないけど今から買うならどっちがいいかな……」という人向けにマレウス・モンストロルム6/7版の違いを様々な点から比較しつつ紹介する記事です。
 細部をじっくり比較検討して購入するかどうかを考えたいという人向けの詳細記事ですので、30秒くらいでふわっと概要を知りたい場合はまとめに飛んでください。
 
※この記事では「新クトゥルフ神話TRPG マレウス・モンストロルム Vol.1 クリーチャー編」を「7版(のマレモン)」、「クトゥルフ神話TRPG マレウス・モンストロルム」を「6版(のマレモン)」と記載しています。
 また7版神格編は扱っていません(今読んでるところ)
 他の記事では6/7版基本ルールブックを指して単に「6/7版」と書くことがありますが、この記事内では基本ルールブックを指すときは「(6/7版)ルルブ」の呼称を使います。

本の構成

 まず本の構成についての紹介。
 
7版目次
 
第1章  恐怖:怪物の使用と創造
第2章  不可解で尋常ならざるものども:クトゥルフ神話の怪物たち
第3章  伝説の怪物
第4章  動物
補遺  神話存在の名前の発音
 
 
 となっています。
 
 第1章はクリーチャーをシナリオで活用するための解説セクションです。
 「怪物をプレイする」「怪物との戦闘」「怪物の魔術」などは7版ルルブ14章の冒頭にある概説に大幅加筆したもので、シナリオの演出や処理に役立つヒントが散りばめられています。
 また6版の補遺にあった「描写できないものを描写する」「オリジナルの怪物を創造する」もこの章に編入され、加筆修正されています*1
 とくに「オリジナルの怪物を創造する」の加筆がすばらしく、クリーチャーの創作にあたって必要な設定項目のリスト──一つ一つ質問に答えていくだけで設定ができあがります──や、シナリオで活用できる怪物を作るにあたって気をつけるべきポイント、能力値のガイド、ステータス決めで悩んだ時に使えるランダム表などが載っています。シナリオに使いたい部分の設定はできてるんだけど他の部分のステータス決めるのがめんどくさい、あるいは既存のシナリオの神話生物ステータスに設定されてない部分があるんだけどこれ決めといたほうがいいよねどうしよう、といった場面で使うことができるでしょう。
 
 描写、演出、設定、ステータス、どの項目の解説をとってもアイデアの出し方や実例がふんだんに盛り込まれ、この第1章を読んでいるだけで新しいシナリオが書けそうな気がしてきます。データに取りかかる前に目を通しておいて損はありません。
 6版から7版で内容に大きな変更はありませんが、7版はもちろん新システムに対応した詳細な解説がある点、6版から引きついだ項目にも加筆がある点でより充実したと言えます。
 
 次に補遺についてですが、これは6版補遺Ⅰと同内容(のクリーチャー部分だけ取り出したもの)で、特筆すべき変更点はありません。
 
 第2, 3, 4章はそれぞれクトゥルフ神話のクリーチャー、人狼などの一般的な怪物、普通の動物の解説およびゲーム内で使えるステータスが掲載されているメイン部分です。以下で2, 3, 4章の掲載項目の変更点を見ていきます。
 

6/7版掲載クリーチャー比較一覧表

 まず6版掲載のクリーチャーについてはYSDCのWikiに一覧(英語)があります。
 
 これに加えて7版で削除/追加(/変更)されたクリーチャーの表を作りましたので、詳細な項目の差異については以下を参照してください。個別の項目にまで興味のない方はとばして大丈夫です。
※削除ではなく別名で項が立てられているのに気付いていないものがあるかもしれないので、そのような項目を見つけた場合はよろしければTwitterなどでお知らせください
 

クトゥルフ神話TRPGで削除された項目

新クトゥルフ神話TRPG(7版)で削除された項目の一覧

クトゥルフ神話TRPGで追加された項目

新クトゥルフ神話TRPG(7版)で追加された項目の一覧

クトゥルフ神話TRPGで名称が変更された項目その1

※英語名の表記は英語名の時点で変更があったのか訳語の変更なのか判別できるようにするため記載しています

※2 イスの偉大なる種族についての2項目が抜けていますが本文検索にあたっての支障はありません。そのうち新しいのに差し替えますごめんなさい

新クトゥルフ神話TRPGで名称が変更された項目の一覧その1

クトゥルフ神話TRPGで名称が変更された項目その2

 その2はカタカナ→漢字など大きな変更のない動物のまとめだけなので見なくても支障はありません(一応まとめるだけまとめたので置いておく)

新クトゥルフ神話TRPGで名称が変更された項目一覧その2

(以上図版作成元:新クトゥルフ神話TRPG マレウス・モンストロルム Vol.1 クリーチャー編(初版、2021/7/30発行)/クトゥルフ神話TRPG マレウス・モンストロルム(初版第5刷、2013/3/27発行))
 
 上図のとおり、掲載されているクリーチャーの数は7版で増えた数より減った数のほうが多くなっています。
 
 削除されたのは基本的に、ある一つの作品で言及されているだけであまりメジャーでない、何かの奉仕種族という以外にあまり世界観との繋がりがない、使いどころが限定されていたりよく分からなかったりする、といったクリーチャーが多いとは感じるのですが、自作のシナリオに採用したことがあるものも多く削除されたものが「使えない」というわけではありません(あるいはこれから詳しい記述のあるサプリが出る予定があって削除されたのかなあと思われる一群もあるのですが、あくまで推測です)。
 
 なるべく広範囲からシナリオに使うクリーチャーの候補を集めたい場合は6版のほうが向いているといえるかもしれません。
 
 

詳細な中身の比較

 章立てや収録されている項目について調べたので中身の話にうつることにします。
 

個々の神話生物に関するデータの分量

 これは間違いなく7版で大幅に増量されています。
 まず実例から見ていただきましょう。
 
歩く妖蛆
6版

歩く妖蛆(6版)

 青く塗った部分が6版の『歩く妖蛆』の項目。ページ半分ちょっとといったところでしょうか。
 対する7版、

歩く妖蛆(7版)

歩く妖蛆(7版)その2

 なんと丸1ページ半以上あります(これは多めに増量されてる例)。

 今のところクリーチャー編のみの比較となりますが、ほぼ全てのクリーチャーで大幅に記述が増えており(印象として多くは1.5倍程度、これより少ないクリーチャーもいますが減っているものはありません*2個々の項目の充実度では7版が圧勝といえます。
 
 全ての(神話の)クリーチャーについて別名が追加されているのも地味に嬉しい点。
 さらに地味ですが歩く妖蛆(大地の妖蛆もね)にルビが追加されたりしているのも高ポイント。
 
 ただ内容に関しては単純に6版のものをそのまま掘り下げて詳しくなったというわけではなく、モンスターの性質、ステータス、システム上の処理等にかなり変更が入っているものも多いです。
 7版のほうがシナリオに出した際のシステム上の処理について詳しい記述が多く、シナリオ作者の視点からするとより扱いやすくなってはいますが、ゲームバランスの好みによっては6版のほうが好きだった、という事態も考えられるでしょう。
 基本的に、6版では処理が厳しすぎたり使いづらかったりしたものがリワークされ、シナリオに出す→解決策を探してどうにかする、の流れにもっていけるよう(クリーチャーによってはかなり大幅な)変更が加えられているという印象です。「こんなんどうやってシナリオ出すねん」がほぼなくなり、シナリオに活用するという観点からはテキストに無駄が減ったともいえます。
 

囲み記事

 7版では各モンスターに関連するアーティファクトや魔導書等(イス人の『電撃銃』、シャッガイからの昆虫の『ミサ・ジ・レクイエム・ペル・シュジャイ』など)の囲み記事が増えています。基本ルールブックに載っている項目もありますがどれもより詳しい記事ばかりのため、ここも6版より強化された点といえます。(ただしキーパー・コンパニオンに項目があるものはさすがにそちらのほうが詳しいです)
 さらに表題が6版と同じであっても、内容はより詳しく、時代に合わせてアップデートされているもの(『ウェンディゴ症』など)もあります。
 
 ただ、その一方で6版から削除されているものがある点も見落とせません(シャッガイからの昆虫に付随する『バビロンの炎上』など*3
 
 ハンセン・ポプラン卿の日誌はいくつかが削除されました(『火星』など)。また同じ項目が残っている場合でも7版は記述に一部変更があり、ほとんどの場合細部が省略されてやや簡潔な記事となっています。
 
 これは7版の囲み記事全てについて言えることなのですが、細かい固有名詞(クリーチャーに関連する地名、人名、加えて年代など)を含む情報や固有の関連アイテムが削除され、かわりにモンスターそのものについての説明が強化されている傾向にあります(アイテムについては、モンスターが持っている可能性のある武器などはむしろ記述が強化されていますが、「そのモンスターについて書かれたこういう題名の本」程度の関わりのアイテムの記述は減っています)。
 シナリオに出す際にどのような存在として説明すればよいか、どんな能力があるのかといった点についてはより詳しくなったのですが、どんな土地で目撃されているのか、どんな歴史があるのかといった情報が薄くなっている印象です。「モンスター自体についての情報は増えたが、モンスターと世界の関わりについての情報は減った」とまとめられるかもしれません。
 汎用的にどんなシナリオにも出しやすくなった一方、歴史、関連する事件、土地、関連アイテムなどからシナリオを考えるタイプの人(私です)にとってのシナリオフックとしての役割はやや低下したといえるでしょう。
 

描写

 個人的にはかなり痛い変更なのですが、7版では各項目冒頭にあるモンスターの描写の出典がありません
 6版ではモンスターの原典(初出とは限りませんでしたが)の作品にある描写が引用され、出典も書かれていたかわりに描写の分量や濃さはまちまちでした。
 それが7版ではシナリオを自作する人向けに描写の分量が統一され、ハンドアウトに引用してそのまま使えるようになっています。というわけで描写をシナリオに使いやすくなったという点では良いアップデートなのですが、そのモンスターについてより詳しく知りたい時にすぐ原典作品を調べられなくなったのは(人によっては)かなりの痛手です。マレモンだけで完結してシナリオを作りたい場合には強化、マレモン以外にも手を広げて調査してから作りたい人にとっては利便性ダウンといえるでしょう。
 
 シナリオでの扱いやすさを考えてか原典とはやや挙動の変わってしまったクリーチャーもいるので、原作を再現していますというていで出典を併記するのはどうかという判断から削除された可能性はあります。推測。
 
 

イラスト

 7版ではイラストが一新されました。
 6版の時はさまざまな遺物に描かれたていのクリーチャーイラストが載っており、まるで実際の歴史の中にクトゥルフ神話のクリーチャーが存在していたかのような、興味深く想像力を刺激する資料となっていました。
 7版イラストでははっきりと直接的にクリーチャーの姿が描かれ、タッチも統一されています。
 
ニーオス・コルガイの例
6版

ニーオス・コルガイのイラスト(6版)

 様式化されて描かれたニーオス・コルガイ。
 対する7版、

ニーオス・コルガイのイラスト(7版)

 他のイラストもすべてこのタッチです。
 
 6版のイラストは興味深いものの、実際のところどういう姿をしているのか絵的な資料がほしい場合はあまり参考にならないものもあったので、この変更は必然だったのかもしれません。
 しかし具体的なイメージがないほうが好みに近いモンスターの姿を想像しやすかったりもしますし、6版の様々な神話パロディは見ていて本当に楽しいので(さらば歌川国芳……)個人的には痛し痒しの変更です。
 

その他

 手元にある6版5刷のマレモンでは『イブン=グハジの粉』がちゃんと『イブン=ガジ』の粉に直ってるんですが7版の初版、『イブン=グハジの粉』に戻ってしまってますね。

 

 

 

まとめ

 まだマレウス・モンストロルムを持っておらず、6版と7版のどちらか一冊だけ買いたい、という場合。(6版のルルブしかない状態で7版マレモンを読んでも処理の分からない部分があるため7版ルルブは持っていることを前提とします)
 シナリオに出すため詳しく情報を知りたいクリーチャーがおり、そのクリーチャーが6版7版両方に載っている、という場合は7版を買いましょう。7版ルルブの『クトゥルフ神話の怪物』セクションに載っているものは「ダゴンとハイドラ」以外全て7版マレモン(クリーチャー編)により詳しい項目があります。
 シナリオのネタ出しをする際に、ルルブに載っているクリーチャーだけでは物足りないから追加のデータ集がほしい、処理についての記述が薄くてもある程度自分で考えられるという場合はどちらかというと6版を勧めます。後々7版を買うことになっても内容的に損はありません
 
 6版は持っているが7版を買おうか迷っている、という場合。
 ページ数も増えて圧倒的強化、と思いきや削除された情報も多く単純な上位互換とは言い難い7版ですが、残っているクリーチャーについては「あるシナリオに特定の神話生物を出したいと思ったとき、即時に、直接的に使える可能性の高い情報」に絞って大幅アップデートがかかったという印象です。
 かわりに、マイナーなクリーチャーや、掲載されているクリーチャーについての情報でも関連性の低いものは削除され、単にページをぱらぱらとめくって目に留まった単語からなんとなく新しいネタをひねりだすといった用途での有用性は若干低下しています。
 ただそもそも神話のクリーチャー+伝説の伝承のクリーチャーのページ数が合わせて167ページ分(6版は134ページ)ありますのでどう頑張っても使いきれないだけのネタが溢れているのは確実ですし、同じクリーチャーについての記事でも内容が一新されているものが多いので、単に6版と同じ文章に数行付け足しただけのものを延々と読まされる、という心配はありません。
 6版にあった「どうやってシナリオに出せばいいか分かりにくいクリーチャー」はほぼなくなり、「シナリオで活用するためのデータ集」としては分量以上に密度も上がっています
 
 もしシナリオを書くために使うのであれば、6版を持っていたとしても7版は大いに買う価値がある、というのが私の結論です。
 システム的な処理は7版への版上げに伴って大幅に変わっているものが多いので、7版シナリオを作りたいのであればその意味でも持っておいて損はないでしょう(もちろん6版のデータからコンバートしてもよいですが、新しく使える攻撃手段があったりもするのでできることは増えます)。
 
    
    
             
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カテゴリ記事──TRPG(一般)

 
ページ画像引用元
歩く妖蛆およびニーオス・コルガイのイラスト……
クトゥルフ神話TRPG マレウス・モンストロルム Vol.1 クリーチャー編(初版)
クトゥルフ神話TRPG マレウス・モンストロルム(第5刷)
 
 

*1:同じく6版補遺の「クトゥルフ神話の存在と種族の死と不死性について」はどこに行ったか不明。ご存じの方がいれば教えてください

*2:設定部分の記載がほぼ変更なし、ステータス面の記述のみ強化というパターンはありました

*3:筆者の見落としだったらすみません、教えてください